前回、中国の法律家の元祖・韓非子が残した名言
「上下は一日百戦す」について書きました。

ここでは韓非子が残した
「まったく正反対の意味の言葉」も紹介します。

名言

音声も撮ったので、聞きながらだと、わかりやすいと思います。
⇒ この記事の音声を聞く

■「巧詐は拙誠に如かず」

この言葉は漢文の授業などでもよく出てくるものです。
意味は「高度な詐術は、拙い誠実さに勝てない」
というものです。つまり「誠実が一番」というものです。

どのような場面でこの言葉が出たのかというと、
ある男が王様から子鹿を捕らえてくるよう言われたのです。

そして、男は子鹿を捕らえたのですが、
親鹿が鳴きながらついてくるのを見て、
かわいそうになって逃してしまったのです。

王様は激怒してこの男をクビにしました。
しかし、王様の子供が成長して教育係が必要になった時、
この男を教育係に呼び戻したのです。

教育

■親鹿の気持ちがわかるなら、人間の親の気持ちもわかる

というのがその理由でした。
確かにその通りでしょう。

逆にここで親鹿を無視して平気で子鹿を連れ去るような人が、
子供の心を豊かにする教育をできるとは思えません。

当時の中国は「春秋戦国時代」という、
血を血で洗う時代だったので、
生き残るためには子供であろうと「心を豊かに」などと
言っている場合ではありませんでした。

血

しかし、そのような時代でも本当に人の心をつかむには、
そのような子育てをすることが大事だと、
その王様は思っていたわけです。

そして、このエピソードを引用して
「巧詐は拙誠に如かず」の言葉を残した韓非子も、
やはりそう思っていたのです。

人間不信で誰よりも徹底してシステムを整えた韓非子も
「システムは人の心を超えられない」ということを
自覚していたのです。

自覚

■人は城、人は石垣、人は堀…

これは武田信玄の作と言われる有名な短歌です。

実際には信玄が作ったのではなく、
後の人の創作と言われていますが、
それでも城は粗末なままで、マンパワーによって
最強の軍団を作った信玄のポリシーは、この歌によく表れています。

この歌の通り、法律などのシステムや、
機械などのテクノロジ―には必ずどこか穴があり、
それを埋めるのは人間の能力や心だけなのです。

韓非子が「上下は一日百戦す」と言いながら、
一方で「巧詐は拙誠に如かず」とも言って居たのを見ると、
私は「きっと後者が本音だったんだろうな」と思います。

少なくとも、本当はそれが理想だと、
彼はいつも思っていたのでしょう。